微男微女

日常の考察

【読書記録】べらぼうくん/万城目学

万城目学さんの「べらぼうくん」を読みました。

 

「べらぼうくん」は万城目学さんが浪人時代から小説家としてデビューするまでを綴った奮闘記です。

 

このブログでは主に小説の読書記録を書いてきましたが、今回はエッセイです。実はもともと私はエッセイも大好きで、特に大学生の頃はエッセイ本ばかり読んでいました。

 

他人の人生や価値観、考え方を知るのが好きなんだと思います。

 

エッセイで書かれている万城目さんのご経歴は

大学受験→浪人→京都大学法学部→留年→就職→退職→無職→小説家デビュー

で、エピソードが盛り沢山。面白かったです。

 

中でも一番心にぐっときたのは、海外旅行のあとの感想で、こう書いてありました。

 

国と国が喧嘩すると、そこに属する国民同士も勝手に仲が悪くなる。相手の顔も知らないのに憎しみ合う。本来は人の集合が国を形成したはずなのに、立場が逆転し、国の都合が人の集合をコントロールしてしまう。最悪の場合、戦争を引き連れてきてしまう。互いにどんな国に属していても、人と人は「こんにちは」と言うことはできるのに、ときにそれを阻害する国際政治とは何のためにあるのだろう、と根本的なところに疑問を抱くようになったのである。

 

ウクライナのことを思わずにはいられなかったですし、戦争がなくても、「国の都合」が国民より優先されてしまうことってあるよなーと思ったりしました。

 

ピックアップした箇所はどちらかというと堅いところで、全体的には軽やかな雰囲気があり、読んだら気持ちが楽になったというか、人生に対して楽観的になれた気がしました!

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】片眼の猿/道尾秀介

道尾秀介さんの「片眼の猿」を読みました。

 

盗聴専門の探偵を職業とする三梨という人物が主人公で、ある楽器メーカーの調査をしている際に殺人事件に巻き込まれてしまい……というお話。

 

この作者さんの小説は何冊か読んでいて、怖くてゾッとする描写のある作品が多いですが、この本はライトな文体で書かれていて、全体的に明るい雰囲気でした。夜に読んでも平気な作品です。殺人事件が起こりますが、ライトなので私みたいに怖いのが苦手な人でも楽しめると思います。

 

たくさん張られた伏線が最後にすべてきれいに回収されてすっきりするのですが、ガツンと大きな衝撃やどんでん返しがあるというよりは、小さな驚きがいっぱいあるミステリーでした。テンポよくすらすら読めるので、皆さんぜひ気軽に手に取ってみてください。

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬

逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」を読みました。

 

独ソ戦で狙撃兵として戦うセラフィマという女性が主人公の物語。セラフィマの胸には常に復讐心があり、それが戦う原動力でした。復讐心は、母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに対するものです。

 

タイトルの「敵」について、あらすじだけ読むと、報復の相手こそが敵なのだろう、あるいはドイツ兵全般を指すのだろう、と想像すると思いますが、小説を最後まで読めば、セラフィマにとって真の敵とは何だったのか、まったく別のものが見えてきます。

 

同時に、戦争における敵とは何なのか、戦う目的は何なのかについて、考えさせられます。

 

たとえば、ある登場人物は子どもを犠牲にしないために戦うと言い、その信念を貫きます。言葉通り、子どもを守るのです。敵であっても。

 

また、登場人物の一人にターニャという看護師がいます。彼女は「戦うのか、死ぬのか」という問いを突き付けられたとき、「どっちも嫌だ」と答えました。そして敵味方の区別なく、治療する。たとえヒトラーであっても治療するというのです。

 

そんなターニャが、こう言います。

以下、引用です。

「もしソ連の人民があたしみたいな考え方で、みんなみたいに戦う人がいなかったら、ソ連は滅んでいたし、世界はとんでもないことになっていただろうな」

セラフィマは無言でうつむいた。肯定も否定もできなかった。

けれど、とターニャは付け加えた。

「あたし、本気で思うんだ。もし本当に、本当の本当にみんながあたしみたいな考え方だったらさ、戦争は起きなかったんだ。だからヒトラーを治療したら、その後で殴ってはやりたい。なんでこんなことをした? って聞きたい。だから、あたしは自分について迷わない……(以下略)」

 

私の中で最も印象的だったシーンの一つです。

これだけではありません。心に強く残った場面は数え切れないほどたくさんあります。おすすめ、という言葉では生温く……「全員読むべき!!」と声を大にして言いたいです。

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】爆弾/呉勝浩

呉勝浩さんの「爆弾」を読みました。

 

これは都民を人質にとる無差別爆破テロに警察が立ち向かうお話で、直木賞の候補作にもなっています。

爆弾の在り処の手がかりはスズキタゴサクと名乗る容疑者が出す「クイズ」のみ。取調室の中でスズキと警察がそれぞれの思惑で会話をしていきます。ボリュームのある本ですが、緊迫感があり、あっという間に読み終えてしまいました。

 

感想としてまず出てくるのは、「スズキ、むかつく!」です。私は小説の登場人物を好きになることはあっても、嫌いになることは滅多にないのですが、スズキタゴサクに対しては嫌悪感しかないです。

卑屈に見せかけて醜いプライドの塊。発言はそれっぽいことを並べ立てているだけで言い訳ばかり。保身に保身を重ね、都合が悪くなると逃げる。そういう卑劣で狡猾な人間が、テロをおこしながら正義を語っていて、読みながら虫唾が走りました。

一方、スズキタゴサクとやりとりする刑事の一人である類家はすごくかっこよくて、ずっと肩入れしながら読んでいました。

 

何はともあれ、それだけ感情を揺さぶられる小説だったということです。ミステリーでありながら、純文学っぽさもあり……おすすめです。皆さんぜひ読んでみてください。

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】マリオネットの罠/赤川次郎

赤川次郎さんの「マリオネットの罠」を読みました。実は一ヶ月以上前に読み終えていたのですが、体調不良でブログ更新ができず、ようやく落ち着いてきたのでこうして書いている次第です。

 

■あらすじ

フランス留学から帰国した上田修一は、恩師の紹介でフランス語の家庭教師をすることになります。3ヶ月の住み込みで報酬は100万円。教える相手は森の館の美人姉妹。ある日、修一は森の館の地下に幽閉された美少女と出会い、彼女を助け出そうとします。それが、都会で起こる連続殺人事件の始まりなのですが、いったいどういうことなのか……? というミステリーです。

 

■感想

登場人物が多く、いろんな人の視点でストーリーが展開されていくので、頻繁に頭の切り替えをしなければならないですが、そんなの気にならないくらい内容が面白かったです。あらすじからも犯人はこの人だろうな、と予想がつくと思いますし、基本的にはそこは裏切られずに話が進んでいくのですが、ラストには衝撃を受けました。いわゆる、どんでん返しです。

ちょっと不気味で、テンポが速くて、ドキドキしながら飽きずに読めて、最後にガツンとやられる感じ。傑作です。ミステリーが好きな人は間違いなく楽しめると思います。

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】いけない/道尾秀介

道尾秀介さんの「いけない」を読みました。怖かったです。

事前情報として、

・体験型ミステリー小説であること

・三つの章(&終章)から成り、章末には写真が載っていること

・その写真を見ると真相が浮かび上がり、物語ががらりと変貌すること

がわかっていました。

変わった本だなと思い、読んでみたくなって手に取りました。

 

第一章と第二章は、「誰が死んだの?」「誰が殺したの?」と疑問が残った状態で物語が終わり、写真を見れば真相がわかる……はずでした。


わかりませんでした。


自分の力で真相にたどり着きたい!という熱い気持ちはあまりなくて、ただ真相を知って驚きたいだけだったので、すぐネットで検索し、第一章と第二章の真相を確認しました。なるほど、と納得しました。


第三章に関しては、深く考えなくても写真の意味がわかってスッキリしました。写真が謎(犯人は誰なのか)の答えであると同時に、どんでん返しにもなっていて、真相にただただ驚かされました。


ただ、その後ネットで自分の解釈が合っているのか確認したところ、大枠は合っていたものの、一部間違っていたことが判明し、細かい部分を読み取れていなかったことに気付かされました。ちゃんと読んでいるつもりでも、読めていないものなんですね。


道尾秀介さんの作品はどれも怖いですが、それ以上に面白くて、怖いのが苦手なのに最後まで読んでしまいます。実は他にも道尾秀介さんの作品でまだ読めていない作品が手元にあるので、早く読みたいと思います!

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】invert 城塚翡翠倒叙集/相沢沙呼

相沢沙呼さんの「invert 城塚翡翠倒叙集」を読みました。「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」の続編で、三つの中編ミステリーが収められています。

 

殺人を犯した犯人を城塚翡翠が追い詰める話です。

 

どれも犯人視点で描かれているので、ついつい犯人に感情移入してしまい、なぜか殺人犯を「頑張れ!」と応援してしまっている自分がいました。そして犯人と同じように城塚翡翠の言動にイラっとしてしまったり……。そのあたり、私は作者の思惑通り振り回される読者なんだろうなあ、と思いました。

 

複数のお話が入っている本の場合、最初のお話が一番面白いことが多いような気がするのですが、これは最後の三作目が一番面白かったです。まさかの展開でラストに驚かされました。

 

一つだけ気になるところを挙げるとすれば、作者の意見をそのままキャラクターに言わせているように感じられる描写がいくつかある点でしょうか。(もちろん、私の受け取り方の問題で、実際は違う可能性もあります。)物語に没頭していたら急に作者の顔がひょっこり現れてくるので、人によってはそこで冷めてしまうかもしれません。

ただ、それらの意見はどれも考えさせられるものでもあって、そういった台詞があるからこそお話に深みが出てくるのだろう、とも思いました。

 

「medium」の続編ではありますが、mediumとは全然違ったテイストの本でした!

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】密室殺人ゲーム2.0/歌野晶午

歌野晶午さんの「密室殺人ゲーム2.0」を読みました。

 

これは「密室殺人ゲーム王手飛車取り」の続編なのですが、王手飛車取りを読む前にこの2.0を手に取ってしまい……結果、やはり続編を読む場合は、その前の作品をちゃんと読んでおくべきだと思いました。最後まで読んでも「?」のままだった描写がいくつもあり、「ああ、これは前編を読んでいないとわからないのだな」と悟ったからです。実際、巻末の解説からも前編を読んだ上でこの本を読むことの大切さが伝わってきて、反省しました。前回、道尾秀介さんの「カラスの親指」「カエルの小指」で順番通り読むことの大切さを痛感したはずなのに、また同じ過ちを犯してしまうなんて……。学習しないとですね。

 

それはさておき、内容は面白かったです。ネット上で五人のゲーマーが推理合戦を繰り広げるのですが、その殺人トリックは彼らが現実の世界で実際におこなったものであるという恐ろしい物語。ゲーマーはとんでもない殺人鬼なんですね。彼らの倫理観はおぞましいですが、そんな頭のネジが外れた人たちだからこそ思いつくようなトリックばかりで、そういう意味ではゾッとしながらも最後まで楽しく(?)読めました。

 

王手飛車取りのほうも、近いうちに読んでみたいと思います。

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】カラスの親指/道尾秀介

道尾秀介さんの「カラスの親指」を読みました。

以前読んだ「カエルの小指」はこれの続編です。

 

ストーリーは、

詐欺を生業として生きる中年二人組のもとに一人の少女が舞い込み、さらに同居人が増えて五人と一匹になり、彼らが人生を懸けて大がかりなペテンを仕掛ける、

というものです。


話が面白すぎてあっという間にラストに突入し…そこでまさかのどんでん返し。驚きました。そして、感動しました。


一体、誰が誰を騙しているのか。

 

それがわかるのは、最後の最後です。


作品は文句無しに面白かったのですが、一つだけ後悔していることがあります。それは、「カエルの小指」を読む前に「カラスの親指」を読めばよかった、ということです。もちろん順番が逆でもちゃんと楽しめます。それでもやっぱり先に読むべきは「カラスの親指」だと思います。もしこれから「カエルの小指」を読もうとしている人で、まだ「カラスの嫌指」を読んでいない人がいたら、先に「カラスの親指」を読むことを強くおすすめします!

 

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きゅうり(矢野友理)

【読書記録】殺し屋、続けてます。/石持浅海

石持浅海さんの「殺し屋、続けてます。」を読みました。

 

以前、第一巻の「殺し屋、やってます。」を読んだことがあり、これはそのシリーズの第二弾です。


650万円で殺しを請け負う殺し屋が主人公のお話なのですが、殺し屋は依頼人とは直接会わない体制になっているので、どういう理由で殺したいのかわからないままターゲットの調査をします。すると、ターゲットが謎の行動をしていて…

と、その謎を解き明かす過程を楽しむ作品です。


殺し屋の話ではありますが、メインは「日常の謎」であり、非現実的な世界の話という感じはあまりしません。


そして個人的に一番のポイントは…作品の「雰囲気」です。

殺人というとどうしても重くて暗いイメージがつきまといがちだと思うのですが、このシリーズは全体的に軽くて明るいので、怖がりなくせにミステリーを読みたくなってしまう私にはピッタリでした。


私みたいに、怖いのは苦手だけど謎解き要素のあるお話が好きでミステリーを読みたくなる人に特におすすめです!

 

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きゅうり(矢野友理)